ショートストーリー。 ー専守防衛ー

ー 専守防衛 ー

「ブレイク!、ブレイク!」。
ヘルメットのイヤーパッドにAWACS 早期警戒管制機からの指示が入る。
反射的に操縦桿を左に倒し手前に力一杯引き、パワーレバーをミリタリーまで押し込む。
機体は左へ激しくバンクし、ガッと身体へGが襲う。
Gメーターの針は7を超えた。Gスーツが下半身を締め付ける。腹筋に力を入れ強く短い呼吸で、脳から血液が流れ落ちるの防ぐ。

「クソッ、本当に撃ちやがった!」。
レーダーロックされRWR レーダー ワーニング レシーバーがピーピー鳴ってたが、本当に撃って来るとは思わなかった。
前方から向かって来るのはAIM-120アムラーム。アメリカ製の中距離空対空ミサイル。
だが、こいつは研究し尽くしてる。ビーム機動でかわせる。
タイミングが合えば、だが。
「よし、落ち着け落ち着け。訓練と同じだ」。
90°の左急旋回から機体を一旦水平に戻す。
旋回で失ったエネルギーを取り戻し、さらなるエネルギーを獲得するためパワーレバーをアフターバーナーポジションへ。機体が加速を始める。
「ジェッション タンク」。
「カバーポジション」。
僚機へ指示を出しながら増槽を切り離す。
「帰りは空中給油か」。
「帰りがあれば、だが」。
後ろを振り返り僚機の位置取りを確認する。

俺は今、F-15J改のコクピットにいる。
場所は対馬近海の上空30000フィート。
しばらく前からK国との関係が最悪な状態だ。
原因はいつものお決まり。
だが今回はK国内の政府への突き上げが激しく、K国政府は世論の目をそらすため軍を動かした。よりによって対馬に。悪いのは日本だと。
K国海兵隊が乗り込んだ強襲揚陸艦「独島」とイージス艦「世宗大王」の艦隊。
海自もイージス艦の「あたご」を旗艦とする護衛艦隊を対馬に向かわせ、上空には空自の戦闘機。
AAM4とAAM5の対空装備のF-15J改でMIG CAP。いや、相手はMIGではないか。それと、新型の超音速対艦ミサイルASM3を装備したF-2A。
対艦装備のF-2AはあくまでK国への警告。いつでも撃沈出来るぞ、と。
だが、K国イージス艦の撃沈はアメリカが許可しないだろうし、ましてやK国海兵隊員が乗った強襲揚陸艦への攻撃は千人単位の戦死者が出る。こちらは日本政府が許可しないだろう。
そして今、俺が乗るF-15J改へ向け、K国はKF-16戦闘機をぶつけてきた。
俺は今回の騒動は、K国の国内向けパフォーマンス程度にしか考えていなかった。
ミサイルを撃たれるまでは。

「20マイル!」。
AWACSからミサイルとの距離が入る。
ライトターン。右に90°切返す。
ここでチャフをリリース。
チャフはレーダーに偽のエコーを作り出し、運が良ければミサイルをごまかせる。
速度という運動エネルギーを回復したのでパワーレバーをミリタリーへ戻す。速度は大事だ。スピード イズ ライフ。
しかし、燃料はもっと大事だ。燃料をバカ喰いするアフターバーナーは長時間使いたくない。アフターバーナー使用中はフューエル フロー メーターが狂ったように回ってる。
レフトターン。左に90°切返す。
もう一度チャフをリリース。
左右への90°ターンを繰り返し、正面からのミサイルに対し常に横切るように飛行するビーム機動。レーダーを欺瞞する動き。
そして、チャフで偽のターゲットをミサイルに与える。
だが、タイミングがすべて。

見えた!。ミサイルはこちらへ1発だけ。
「よしっ、かわせる」。
ライトターン。
今度は9G!。
リリース チャフ!。
「ドーンッ!」
ミサイルは後方のチャフへ突っ込んで誤爆した。

「ROE はクリア?。反撃許可を」。
「ネガティヴ!」。
AWACSからの返答に唖然とした。
クソッ!。ミサイル撃たれてネガティヴはないだろう。
「今、空幕へ確認中。反撃はネガティヴ」。
だが、とりあえずAWACSは奴らへのインターセプトコースを指示してきた。

「アームドは?」。
AWACSへマスターアームONの許可を取る。
「ネガティヴ!」。
チッ、何考えてんだか。
AWACSからこちらの機体状況は見えない。マスターアームをONにしても分かりはしない。が、自衛官としてパイロットとしての良識がそうはさせなかった。
「もうちょっと高度が欲しい」。
ビーム機動で失った高度をAWACSにリクエストする。
「ベクター010、アルト28、ミリタリー」。
AWACSはインターセプトコースと高度、ミリタリーパワーでの追跡を指示してくる。
敵機は、そう相手はもう敵機と呼べるだろう、ミサイルを発射するとコースを反転していた。
こちらのレーダーモードはRWSモード、索敵モードだ。相手の速度と向かう方位は分からない。ただそこにいる、という表示だけ。
アームドを許可されないのでレーダーロックはしない。
レーダー画面の反応は心なしか離れていく。
「このままだと振り切られるな」。
そう思いながら、振り返って僚機を確認したその時。
「ピッ、ピッ、ピーッ!」。
RWRのレーダー警報が連続した不吉なトーンに変わる。ロックオンされた。
ヤバい!、イージスシステムだ!。
「ピーッ!」。
新たな警報!。
そしてAWACSからの指示。
「ミサイルワーニング、SM-2。ダイブ!、ダイブ!」。
クソッ!K国イージス艦からのSM-2 スタンダードミサイルだ。AWACSはどこを見てたんだ!、イージス艦の位置は分かってただろうに。極めつけの最悪!。
左へロールを打って反転降下。海面へ向けダイブする。
頭上から赤い火の玉が迫って来る。
さっきからチャフは撃ちまくってるが、イージスシステムとスタンダードミサイルには無力。ミサイルの速度が速くてビーム機動が通用しない。
スタンダードミサイルから逃れるには海面ギリギリに降りてシークラッターに紛れるしか方法は無い。
でも海面までは10000フィート。間に合いそうにない。
「だめか・・・」。

「ドンッ!」。「ガーン!」。
パイロットになって初めて経験する、閃光、音、衝撃。それに続くワーニングランプ、コーションランプの点灯。
「ワーニング。エンジン ファイヤー レフト。ワーニング。FCSフェイラー。ワーニング・・・」。
警報だらけだな。
コントロールは?。
クソッ、アンコントロール!。
「メーデー、メーデー、メーデー」。
「アンコントロール!。アンコントロール!」。
ベイルアウトだ!。
「イジェクト、イジェクト、イジェクト!」。
俺はベイルアウトをコールして射出シートで脱出した。
いや、果たして脱出出来たのだろうか?。

突然、周りの景色が消えた。
「ノック イット オフ、ノック イット オフ。訓練終了。パイロットはシャットダウン手順完了後、シミュレーターから降りてください」。
シミュレータコントロール室からの指示が来る。
「ノック イット オフ了解」。
シミュレータのコクピットで各スイッチをオフへ。
「シャットダウン チェックリスト コンプリート」。
シートのハーネスを外しヘルメットを脱ぐ。
「はぁ〜。死んだ、のか?」。

シミュレータのシートに座ったまま思わずつぶやいた。
「俺は今、専守防衛の生贄にされたのかな」。
自衛隊の基本戦略、専守防衛。
相手からの攻撃を受けてから、初めて軍事力を行使する。
相手機からの空対空ミサイル発射だけでは、故意か事故かは判断しかねる。
明確な攻撃の証拠が必要となる。撃墜という証拠が。
「AWACSがイージス艦の存在を忘れるはずがないもんな」。
「俺は交戦規定クリアのための生贄だったのかもな」。
「レーダーロックは無し、ましてやマスターアームはOFF。敵対行為、挑発行為は全く無し・・・」。
「専守防衛か〜。ま、宣誓した身だし。これも幹部自衛官としての責任だよな」。
胸のウイングマーク入りのネームパッチをパチンと叩いて、俺は訓練デブリーフィングへ向かった。

おわり

アラート任務という「実戦」のため、土日盆正月無しで待機されている空自隊員に敬意を表します。

5件のコメント

  1. elan

    MIZさん、無事に投稿できたようですね。
    よかったよかった。
    今後は作品をコンテンツとして提供できるようになったわけです。
    なんだか凄いですねえ。

    画像などもかなり自由に貼れますので、色々と試してみてください。
    投稿前にプレビューでも確認できますし、慣れればそれほど難しいことではないですから。

  2. MIZ

    アララッ、投稿されちゃいましたヨ!。

    イチローさんの思いを、elanさんが設定して下さった「あららぎの庭」。
    設定完了との連絡がありましたので、ならばチトやってみましょうか。
    小説カテゴリーで、先のショートストーリーで投稿ボタンをば「ポチッ」。

    ゲッ!。投稿されてるよ!。
    チョット恥ずかしいやら、ちょびっと嬉しいやら、何やら複雑です。

    • dnag(ドナグ)

      MIZさん、おもしろかったです!航空機の交戦中って、こんな感じなのか!と勉強にもなりましたし、何より読んでいて非常におもしろかったです。

      シミュレーター落ちにされていますが、これ、リアルの話にして日本対韓国戦を徹底して描かれてもいいのではないでしょうか?空自と韓国空軍がこういう戦闘を行う場合、日本、および韓国政府はどう動き、中国、北朝鮮はこれに乗じてどんな悪さをするか?米軍はどんな状態になり、ロシアはどう出るか?

      そんなこんなを背景に「胸のウイングマーク」を光らせた主人公が大活躍する、そんなお話を読みたいと思いましたよ。

      ちょいと脱線しますが、私は専守防衛の意味は、拡大解釈してよいと思っています。侵略を主目的としない限りにおいて、「先制攻撃を加える」ことも専守防衛思想の中に組み込んでよいと思っています。でないと、日本国内が戦場になったり、MIZさんが描かれたように「生贄」が必要になったり、悲惨なことになりますから。

      ともあれ、すっごく面白かったです!ありがとうございました。

  3. 晴れ晴れショー

    本格的になってきましたね。(^o^)
    ぐっと、世界観に入る事が出来て すっと
    読む事が出来ました。(^-^ゞ
    又、小説の方 楽しみに読ませて頂きます。ありがとうございます。👍

  4. 晴れ晴れショー

    今日の総歩数合計は12632歩でした。
    ちょっと、左膝と右の足首がうっすら痛いので、明日は様子を見て歩こうと思います。(^-^ゞ
    ではまた。(@^^)/~~~

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